『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』(情報文化研究所)を読んだ。
ミスコミュニケーションの原因は認知バイアス?
昨今SNSを中心として騒がれているいろいろなトピックを覗き見ていると、いろいろなミスコミュニケーションの場面に遭遇する。
議論が進むにつれて元の主張がわからなくなる人、いわゆる”エクストリーム擁護”を繰り広げる人、主張に反するデータを見せられても捻じ曲げた解釈で頑なに主張を貫く人、などなど…
そういう議論を見ていると、中には意図的にしているものもあるのかもしれないが、認知の歪み(認知バイアス)もあるのではないか?と思われるものもある。
そういう発言や振る舞いをする心理が気になって、なぜそのようなことが起こるのか、そして自分が陥らないようにするために、認知についていま一度勉強しておこうと思って読んでみた。
もともと大学は心理学系の学部を卒業しているので基礎的なことは知ってはいるつもりだが、改めて触れてみようと思って手に取った。

実際に参考文献の中に自分が所属していた研究室の教授と助手(当時)の論文が採用されていました…
『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』

「認知バイアス(cognitive bias)」とは、偏見や先入観、固執断定や歪んだデータ、一方的な思い込みや誤解などを幅広く指す言葉(「監修者まえがき」より)。
この本では、論理学、認知科学、社会科学の3つのアプローチで各30、計60の認知バイアスのタイプ/事例を取り上げ、「心のクセ」の仕組みを解説している。
感想
「〜〜効果」や「〜〜現象」など、この分野に興味があれば一度は聞いたことのあるようなワードも並んでいるが、実のところそれぞれの定義や起こる仕組みなどをしっかりと理解しているわけではなかった。
その仕組みや実例などを丁寧に解説していて腹落ちする。
「最近ネットで話題になっているのってまさにこの現象じゃないか!」などと頷かせられる項目も多々あった。
各項目の頭には「関連」として他の項目へのリファレンスが示されていることからもわかるとおり、それぞれの項目は独立して発生している現象ではなく、ひとつの場面でもいろいろなバイアスが絡み合って作用して、人の心を動かしているとわかる。
バイアスについての知識を手に入れたからといって自分が陥らないとは限らないが、知識を得たことによって、ふとした時に自らがバイアスに陥っていることに気づくことができ、自分の主張を見直たり改めたりするきっかけになる。
逆に、相手の主張が一見正しいと思っても、認知バイアスに関する知識を持っていれば、相手がバイアスに陥っているかもしれないと考えることができ、相手の主張の妥当性を改めて考え直すこともできるかもしれない。
他にも、認知バイアスを正しく使えば、商品の売り上げをアップさせたり、自分や他人に満足感や幸福感を与えることもできるだろう(使い方には注意が必要だろうが)。

最後の項目「知識の呪縛」は、この項目を最後に持ってくる意味がちゃんとあって、本書の締めとしてふさわしい内容となっていました。
傍に置いておくべき一冊
「事典」というタイトルのとおり、書物として一度読んで終わりというものではなく、思い当たることに出合った時に手に取って、「これはこのようなバイアスが働いているのではないか?」と気づいて改善したり指摘したりできるように、傍に置いておくと役に立つ一冊だと思う。