Illustratorで作ったデータを印刷屋さんへの入稿(出稿)用に整えるときにすべきなのが、主にテキストのアウトライン化(書式→アウトラインを作成)とアピアランスの分割(オブジェクト→アピアランスを分割)。
この2つはどちらを先にすればいいのかを考えてみました。
僕は以前から、「アピアランスの分割を先にやる」という考えで、実際に、ドキュメント全体に対して「アピアランスの分割→アウトライン化」の順に処理をするアクションを作り、それを使って入稿用のデータを作っています。
しかし、そのアクションではうまく処理できない場面が何度かありました。
その原因を探ってみると、いろいろと分かってきました。
アピアランスの分割を先にやる方がいい理由
僕がアピアランスの分割を先にやる方がいいと思っていたのは、以下のような理由からです。
例を挙げます。
上の例では、テキストに塗りを追加して、「効果」→「形状に変換」→「楕円形…」で、テキストの背面に円を追加しました。
効果で円を追加すれば、テキストの内容が変わっても、(オプションでサイズ:値を追加にしていれば)それに伴って円が変形するので、いちいち円の大きさを変える手間が省けますし、これで一つのオブジェクトなので取り扱いが楽です。
しかし、これを「アピアランスを分割」の前に「アウトラインを作成」すると、このようになります。
円の位置がずれてしまいました。
「アピアランスの分割」はしていないので、円は相変わらず「効果」によって付加されています。
それなのに位置がずれてしまったのは、もともとテキストに対してかかっていた効果が、アウトライン化によって「アウトライン化されたオブジェクトに対して効果がかかった」状態に変わったためです。
もともと、この「楕円形」の効果は、塗りあるいは線を「テキストの中心」を中心とした楕円形に変形するものですが、ここでいう「テキストの中心」とは、「テキストの『仮想ボディ』の中心」です。
アウトライン化によってテキストはオブジェクトに変わったので、楕円形の中心は「テキストの仮想ボディの中心」から「(文字の形をした)オブジェクトの中心」に変わります。
たいていの文字(の形をしたオブジェクト)の中心は仮想ボディの中心からずれているので、テキストからオブジェクトに変わることにより、楕円形の基準となる中心点の位置が変わって、そのため楕円形が移動してしまうのです。
もっと分かりやすい例。
「_」(アンダースコア)をアウトライン化するとこんなにずれてしまいます。
「形状に変換」の効果だけでなく、「パスの変形」→「変形…」で拡大・縮小や回転など、変形の基準点を設定する効果をテキストに設定した場合も同様に起きます。
【「変形…」パネル内の変形の基準点の設定】
今度は、先のテキストをアウトライン化する前に、「アピアランスを分割」をかけます。
効果で設定された楕円形は、アピアランスの分割によって円のオブジェクトに変わりました。
テキストはテキストのままですが、円は分割によりテキストの影響を受けなくなったので、位置は変わりません。
つまり、「基準点を持つ効果を設定したテキストをアピアランス分割の前にアウトライン化すると、その基準点が変わってしまうので、それに伴って効果の位置がずれてしまう」ということです。
これを経験したので、僕は「先にアピアランスの分割をすべし」と考えたわけです。
ところが、次のような現象に遭遇しました。
アウトライン化を先にやる方がいい理由
上の記述と矛盾していますが、実際にアウトライン化を先にやる方がいいなという状況が発生したのです。
下の例では、図形に「テキストの回り込み」を設定します。
(このオブジェクトを、Adobeは「回り込み対象オブジェクト」と呼んでいます。)
そして、なおかつその回り込ませるテキストに新規線を追加し、その線に「ぼかし(ガウス)…」の効果をつけています。
このオブジェクト全体に「アピアランスを分割」をかけると、下のようになります。
アピアランスの分割によってぼかしは画像化されましたが、テキストの回り込みが解除され、元のテキストがはみ出してしまいました。
この理由は、アピアランスの分割によって、テキストが「文字部分」と「(ぼかしの)画像部分」に分かれて、グループ化したためです。
「テキストの回り込み」が適用される条件は、
- エリア内文字(テキストボックス)である
- 回り込み対象オブジェクトが、回り込ませるテキストと同じレイヤーで、かつテキストより上にある
ことに加え、 - 回り込ませるテキストが他のオブジェクトとグループ化されていないこと(回り込みを設定した後で、回り込み対象オブジェクト自体とはグループ化してもよい)
の3つとなっています。
例では、アピアランスの分割をする前はもちろん上記の条件を満たしています。
しかしアピアランスの分割によって、テキストが「文字部分」と「画像部分」に分かれてグループ化されることで、3.の条件を満たさなくなってしまうため、回り込みが解除されてしまうのです。
だから、上で回り込みが解除されてしまったテキストを含むグループをグループ解除してやると、再び回り込みが適用されます。
そして、アピアランスの分割をしないで、アウトライン化をしたのが下の画像。
ぼかし部分は効果のままですが、テキストがアウトライン化して図形になったので、回り込み対象オブジェクトの影響はもう受けません。
つまり、「(ぼかしやドロップシャドウ、光彩など)アピアランスの分割をした際に画像に変換される効果を使ったテキストに回り込みを設定しているときは、先にアウトライン化しなければならない」ということになります。
このようなテキストを使う場面はあまり無いかもしれませんが…
ここまでの考察による結論
つまり、ドキュメント全体に対しては、一括して「アピアランスの分割」と「アウトライン化」のどちらを先にかければよいという答えはないというのが、ここまでの結論です。
ただ、「テキストに基準点を持つ効果を設定する」のと「テキストの回り込みを設定して、なおかつそのテキストにぼかしなどの効果を設定する」のでは、前者のほうが頻度としては多いと思われるので、個人的には概ねアピアランスの分割を先にやったほうがよいと考えます。
後者のようなオブジェクトが存在するときには、必要に応じて先に個別にアウトラインをかけてやるしかないと考えます。
いや、こうすれば一括で処理できるよ、という方法があればお教えいただきたいです。
僕は冒頭に書いたように、アピアランスの分割→アウトライン化をするアクションを作って処理を自動化していますが、その過程でオブジェクトが変化してしまわないか目視でチェックすることも忘れないようにしています。
最近はPDF入稿を推奨する印刷屋さんも増えてきたようなので、アピアランスの分割やアウトライン化をしないでそのままPDFにした方がよいかもしれませんね。
余談
ちなみに、アピアランスの分割を先にやる方がいい理由で挙げた例に、追加として、テキストに先に「効果」→「パス」→「パスのアウトライン」を文字全体にかけてやれば、先にアウトライン化しても問題ありません。
注意点は「文字全体に」という点。
普通にパスのアウトラインをかけたら、アピアランスパネルの一番下に効果が配置されますが、そこではなく、アピアランスパネルの「文字」よりも上に「パスのアウトライン」を置くことが大事です。
これで、一番最初に文字そのものに対してパスのアウトラインの効果がかかり、アウトライン化したオブジェクトに対してその他の効果がかかります。
ただ、この場合、先ほどと同じ理由で「パスのアウトライン」をかけた時点で円の位置がずれてしまいます。
しかし上の状態から後にテキストをアウトライン化してもずれは変わらないので、ここをスタートとして「変形…」などで微妙な位置調整をすればいいと思います。
アウトライン化する前と後で円の位置は変わらないので、とりあえず問題は解消です。
でも、個別にこの処理をするのも面倒ですね…
逆にアピアランスの分割をすると、一番上に「パスのアウトライン」の効果を設定していたので、アピアランスの分割をしただけでアウトライン化も同時に行われます。